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2022年4月1日 --- 蔓歌ろこ
#7.5 恋より先に
ぎゅ、と、決して優しくない力で抱きしめられた。
これがヒトの体温。
わたしを抱きしめる腕に段々と力が込められていく。
思わず身体が強ばる。
これが
わたしが
ろこが、ずっと一心に受けていた、
なんて、綺麗で醜悪で、あつくて、どろどろとしていて、愛おしいんだろう。
ヒトが恋をすることは、知っている。知識として、この身が知っていた。
でももうそんなもの、どうでもよくなってしまった。
恋より先に、愛を知ってしまったら。
そんなもの。
これは「わたし」でなく、「ろこ」に向けられているものだ。
わかっている。それでもどうしてこんなに、離れがたいんだろう。そんな粘性の感情を浴びせられたら、動けなくなってしまう。
「うん。……じゃあ、リュックとかに必要なもの詰めてさ、お花見行こっか! 今は暖かいから、日向ぼっこできちゃうねえ」
「そうだね……うん、あったかいもんね」
姉の身体が離れる。私の前を歩く背中は、この身が覚えていたものよりも小さく見えた。
「わたし」は、もうあなたを一人にしない。そんなこともうできない。
精一杯、「蔓歌ろこ」でいるから。
隣りにいることを、許してはもらえないだろうか。
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