2022年4月1日 --- 蔓歌ろこ
#5 桜になりたかった
桜が好きだった。毎年この時期になると、家族みんなでお花見に行くのが恒例だった。ある時は家の近くの桜の大樹のある丘で、ある時は旅行先で、ある時は近くの公園で、ある時はBBQしながら。新生活への不安感も煽られるけど、そんなことも忘れてしまうくらい、楽しかった。
今も、今この瞬間も、桜が好きだ。だってこれから、連れて行ってくれるから。私を救ってくれるはずだから。私と一緒に、散ってくれるはずだから。
ズタズタになった袋に入った、大量の青い粉を眺める。パキパキと全部開けるのも大変だったし、袋に入れてから粉々にする作業も重労働だった。ジャムの瓶があったから、それで殴りつけたのだ。小さい割に結構頑丈だからぴったりだった。私、手小さいし。
大樹の根元に座り込む。家からすぐ近くだから、ここには毎年欠かさず来ていた……が、昨年は、そろそろ行こうかと話をしていたところのあの出来事だったので、叶わなかった。だから、2年ぶりだ。
袋の口を開けて、さらさらと口の中に流し込む。持っていたペットボトルの蓋を緩めて、水を流し込んだ。多分今、舌が真っ青になっているだろうな。
この桜はいつもと変わらない様子で、優雅に咲き誇っている。それで良い。私はあなたが咲かせる桜が好きなのだ。だから、ここを選んだのだ。
ぼけっと見上げていると、ふと一層強い風が吹いた。ピンク色がばらばらになって、快晴の青に溶けていく。
ああ、
わたし も。
いっしょ に。
もう
まぶたが
おもくて、
おもく
て、
ごめん ね
おねえ ちゃん