2022年4月1日 --- 繧ー繝ュ繝?ぅ繧ケホイ-7
#6 極彩色を知る
色盲の人間に「赤」を伝えるにはどうすればいいか、という質問がこの世にはある。
自分は色盲ではないけれど、いわゆる「黒」と「白」しかしらなかった。暗い部屋で保管されているかと思ったら、突然この身を焼くような光を浴びせられて、レンズ越しにジロジロと見られる。それが全てだった。
しかし、その生活が実を結ぶことはとうとうなかったようだ。
自分は、失敗作だったから。
「あー、今回のは良い線まで行ったと思ったんだけど」
「また調整のし直しですね……どうします、この虫」
「奥の方に置いといてくれ。水分を抜けば干からびて勝手に死ぬだろ」
「了解でーす」
「……もう昼休憩の時間だ。一旦飯でも食おう」
死の間際聞いた会話は、こんなものだった。
彼らは、この身が……自分達が自我を獲得していることに気づいていないのだろう。とても生物に対する扱いとは思えない言葉ばかりで、あるかも分からない心が傷ついた記憶がある。
彼らがいなくなったあと、1cmほどしかない粘性のある身体を少しだけ肥大化させ、薄く薄く扉の隙間からこっそりと抜け出しす。そこで自分は初めて、「色」を知った。今まで無だったところにいた自分にとっては、研究所の無機質な空間でさえも極彩色に思えたのだ。
ああ、せめて死んでしまうのなら、外を。
最後に、外を見てみたい。
――
ピンク色の薄い何かがひらひらと舞い落ちるその場所は、研究所とは比べ物にならないくらいの色で、動きで、音で満載だった。上で無限に広がってるのが空、それをふよふよと流れるのが雲、この身をなぞるこれが風、風になびくのは花と草木。その場所にはあらゆる情報量が詰まっていたが、そこには一際目を引く大樹があった。その先にはピンク色の花をつけている。
そして、その木の幹の前で倒れている少女は、もっと色に満ちていた。舞い散る花弁と同じ色をした髪やフリル。差し色として散りばめられた、偽物みたいな水色。不健康さすら思わせる生白い肌。閉じられたまぶたを、長く繊細な睫毛が彩っている。
ああ、綺麗だ。まるで眠っているようだ。眠っているように――死んでいる。
この身は、もう、流るる風によって干からびる寸前だった。最期に外を見たいと願っていたのもつかの間、自分は、「もっと色んな景色を見たい」と思ってしまった。
もしかして今、彼女の身体に入れば……それが、叶うかもしれない。
一か八かで、――「私」は、「彼女」の半開きになっている口の中に入り込んだ。